工場は強く、家計は慎重―中国経済の「ちぐはぐ」が日本の中小企業に届くまで
中国経済について、気になるニュースが続いています。
不動産市場の低迷や消費の弱さが伝えられる一方で、電気自動車やロボット、人工知能などの分野では、中国企業の存在感がますます高まっています。
この二つの話を聞くと、中国経済は結局、好調なのか不調なのか、分かりにくく感じるのではないでしょうか。
私は、どちらか一方だけで判断するのは難しいと考えています。
中国は、ものを作って世界に売る力が非常に強い国です。
しかし、その力が国内の家庭の安心や、日々の買い物の増加に十分つながっていない面があります。
この問題は、日本の企業や私たちの暮らしにも関わっています。
経済成長の数字だけでは、暮らしの実感は見えません
まず知っておきたいのは、一つの国の経済が成長していても、すべての業界や家庭が同じように豊かになるわけではないということです。
中国の国家統計局が10月19日に発表した数字によると、2026年7月から9月までの経済成長率は、前年の同じ時期と比べて4.5%でした。
1月から9月までを通すと4.6%で、政府が掲げる今年の目標「4.5~5%」の範囲に収まっています。
大きな経済規模を持つ国としては、決して小さな伸びではありません。
その一方で、同じ1月から9月までの不動産開発への投資は、前年より約2割も減りました。
お店で売られた商品の売上高を合計した小売売上高も、1%ほどしか伸びていません。
統計局自身も、国内の需要が足りないという問題はなお大きいと認めています。
工場で作られた製品が海外でよく売れれば、生産や輸出は増えます。
新しい工場や技術に資金が集まれば、成長している企業も現れます。
しかし、街の商店や飲食店、住宅関連の会社まで同じように潤うとは限りません。
会社の中で好調な部門と苦しい部門があるように、国の経済にも差が生まれます。
大切なのは、成長率が何%かという数字を見るだけでなく、どこで利益が生まれ、誰の所得が増え、そのお金がどこで使われているのかを見ることではないでしょうか。
中国のものづくりは、以前とは大きく変わりました
かつて中国は、人件費の安さを強みにして、世界中の企業から生産を引き受ける国として成長しました。
衣料品や日用品、電気製品などを大量に作り、海外へ届ける役割が大きかったのです。
ところが今は、単に安く作るだけの国ではありません。
電気自動車、蓄電池、太陽光発電の設備、産業用ロボットなど、技術が必要な製品でも強い企業が育っています。
人工知能や半導体に関わる分野にも、多くの資金や人材が集まっています。
一つの製品を作るには、部品、材料、機械、運送など、多くの会社が必要です。
中国には、こうした会社が集まる大きな産業の基盤があります。
部品の調達から製品の組み立てまでを近い場所で進められることは、大きな競争力になります。
大きな国内市場や政策の支援も、新しい技術を育てる力になっています。
不動産が低迷していても、中国の産業全体が弱いわけではありません。
ただし、たくさん作れることと、利益が出ることは別です
ここで注意したいのは、ものづくりの力が強いことと、企業が十分な利益を得られることは、必ずしも同じではないという点です。
例えば、ある商品が人気になり、多くの会社が新しい工場を建てたとします。
最初は需要が大きく、どの会社も順調に売上高を伸ばせるかもしれません。
しかし、生産する量が買いたい人の数を超えると、売れ残りを避けるための値下げ競争が始まります。
消費者は安く買えますが、企業は販売数量が増えても利益が減り、工場の借入金の返済が重荷になることもあります。
政府から補助金や資金面の支援を受けている場合、企業は採算が厳しくても生産を続けやすくなることがあります。
ただし、支援を受けている企業がすべて採算割れというわけではありません。
技術力を高め、十分な利益を上げる企業もあります。
私が注目したいのは、生産量だけでなく、利益や投資の回収状況です。
新しい技術が広がることは喜ばしい一方で、設備を増やしすぎれば、後になって借金や値下げ競争が重荷になる可能性があります。
不動産の値下がりは、家庭の買い物にも影響します
中国の国内消費がなかなか力強くならない理由の一つに、長く続く不動産市場の不調があります。
今年1月から9月までの新築住宅の販売額も、前年より1割以上減りました。
住宅は、単に住むための場所ではありません。
多くの家庭にとって、長年かけて築いてきた大切な財産でもあります。
住宅価格が上がっていた頃は、持ち家の価値が増えたことが、将来への安心感につながった家庭もあったでしょう。
しかし、住宅価格が下がると状況は変わります。
日本円に置き換えて、購入時に3,000万円ほどだった家の価値が、2,400万円程度になったと考えてみてください。
すぐに家を売る予定がなくても、家計の財産が目減りしたように感じるはずです。
住宅ローンが残っていれば、家の値段が下がっても返済額が自動的に減るわけではありません。
将来の収入や仕事についても不安があれば、家電の買い替え、旅行、外食などを先送りする家庭が増えるかもしれません。
影響は住宅会社だけでなく、家具、家電、建設、金融などにも広がります。
不動産市場を立て直す難しさは、単に新しい住宅を建てれば済むわけではないところにあります。
家を買う人が将来に安心できなければ、供給を増やしても需要はなかなか回復しません。
所得が増えても、消費が増えるとは限りません
もう一つ大事なのは、家庭の収入と支出の関係です。
中国の統計では、今年1月から9月までの1人当たりの可処分所得、つまり税金や社会保険料を差し引いた後に自由に使えるお金は、前年より5.3%増えています。
それに対して、商品の小売売上高の伸びは1.1%にとどまりました。
ただし、旅行や娯楽などのサービスへの支出を含めると、消費の伸びは2.6%になります。
家庭のお金の使い道が、ものからサービスへ少しずつ移っている面もあるのでしょう。
また、所得の統計と売上高の統計は対象や計算方法が違うため、数字をそのまま比べて結論を出すことはできません。
それでも、所得ほど買い物が伸びていないことは、家庭の慎重さの表れと考えられます。
なぜ、収入が増えても買い物を控えるのでしょうか。
理由として考えられるのは、将来への不安です。
病気になったときの医療費、子どもの教育費、老後の生活費、仕事を失ったときの備えなどを考えると、今すぐ使えるお金があっても貯蓄を優先したくなります。
先行きが不安なら、日本の家庭でも大きな買い物には慎重になるでしょう。
反対に、収入が安定し、必要なときに支えを受けられるという安心が広がれば、少しずつお金を使いやすくなります。
消費を増やすには、一時的な割引や購入支援だけでなく、安心して暮らせる仕組みも欠かせません。
国内で売れない商品は、海外へ向かいます
中国の製造業と家庭の消費を一緒に考えると、問題のつながりが見えてきます。
工場は大きな生産能力を持っています。
しかし、国内の買い物が思うように増えなければ、企業は海外で新しいお客さんを探そうとします。
実際、今年の中国の輸出は、前年を1割以上上回るペースで伸びています。
海外に売ること自体は、暮らしを豊かにする大切な経済活動です。
ところが、国内で消費しきれないほど多くの製品が海外へ向かい、安い価格で販売されるようになると、別の問題が生まれます。
輸入する国の消費者は安く買えますが、同じ商品を作っている地元企業は厳しい競争に直面します。
価格を下げれば利益が減りますし、値下げできなければ受注を失うかもしれません。
その結果、輸入国では、自国の産業や雇用を守るために、関税を引き上げたり、輸入の条件を厳しくしたりする動きが出やすくなります。
補助金が公正な競争を妨げていないかという議論も起こります。
中国が海外販売を増やそうとするほど、販売先の国が警戒を強めることもあるのです。
ものづくりの競争力が高いことが、必ずしも海外で自由に売れることを意味しなくなっています。
世界は、安さだけで取引相手を選ばなくなりました
以前の世界経済では、品質がよく、価格も安ければ、海外から積極的に買うことが合理的だと考えられてきました。
企業は、生産費用を抑えるため、世界中から部品や材料を集めていました。
しかし近年は、価格に加えて、供給が止まらないか、重要な技術を特定の国に頼りすぎていないかという点も重視されるようになっています。
例えば、電池や半導体、通信機器、電力に関わる設備は、私たちの暮らしや産業に深く関係しています。
どれほど安くても、政治的な対立などによって急に手に入らなくなれば、大きな混乱を招くおそれがあります。
そのため、企業は多少費用が高くなっても、調達先を複数に分けたり、生産拠点を移したりするようになっています。
各国政府も、国内で重要な製品を作れるよう支援を進めています。
もちろん、中国を含む世界の取引がすべて止まるわけではありません。
ただ、以前のように「効率がよいから一か所に集める」という判断だけでは済まなくなりました。
中国にとって、輸出を増やす際の条件は、少しずつ厳しくなっていると考えられます。
中国政府が抱える、難しい選択
中国にとって、将来の成長を支える産業を育てることは重要です。
新しい技術や工場への投資をやめれば、世界での競争に遅れてしまうかもしれません。
一方で、国内の家庭が十分にお金を使えない状況で、生産能力だけを増やしても、商品が余るおそれがあります。
海外へ売ろうとしても、輸入国の規制が強まれば、それにも限界があります。
では、家庭の消費を増やすための政策を優先すればよいのでしょうか。
それも簡単ではありません。
例えば、医療や年金などの仕組みを充実させ、家庭の負担を軽くするには資金が必要です。
不動産市場や地方政府の財政問題を整理するにも、時間と費用がかかります。
これまで工場建設や公共事業などに向かっていた資金の使い道を変える必要も出てくるでしょう。
限られた資金を産業と暮らしのどちらにどれだけ回すか、難しい判断が続きます。
今後の中国経済を左右するのは、技術開発の成功だけではありません。
経済の成果が家庭にも届き、国内で商品やサービスが買われる流れを作れるかどうかです。
物価の数字は、一つだけ見ても実態が分かりません
今年1月から9月までの消費者物価は、前年より0.9%の小幅な上昇でした。
一方で、工場が出荷する製品の価格は2.3%上がっています。
中東の紛争で原油の値段が上がったことも影響しているようです。
そして住宅の価格は、多くの都市で下がり続けています。
工場の費用が上がっても、家庭の買い物が弱いままでは、その分を店頭の価格に上乗せすることは難しくなります。
値上げできずに企業の利益が減ると、賃上げや新しい投資が難しくなることがあります。
すると、家庭の収入が伸びにくくなり、買い物もさらに弱くなるかもしれません。
反対に、ものが安くなる場合も、理由によって意味が変わります。
技術の進歩で同じものを安く作れるなら、暮らしの豊かさにつながります。
しかし、商品が売れないために値下げを続けているのであれば、注意が必要です。
確認したいのは、物価が少し上がったか下がったかという一点よりも、企業がきちんと利益を出し、働く人の所得が増え、買い物が続く状態になっているかどうかです。
日本の企業には、厳しい競争が広がる可能性があります
中国経済の変化は、遠い国の出来事ではありません。
日本の会社、とくにものづくりに関わる企業にとって、すでに身近な問題です。
例えば、中国企業が高い技術力と大きな生産能力を使い、電気自動車や電池、機械などを安く販売できるようになると、日本企業は厳しい価格競争に直面することがあります。
完成品を作る大企業だけの話ではありません。
部品や材料、加工を請け負う中小企業にも、発注価格の引き下げや取引先の変更という形で影響が及ぶ可能性があります。
中国国内で住宅建設が低迷すれば、建設機械や建材などの需要が弱くなることも考えられます。
中国向けの販売が多い企業ほど、現地の消費や設備投資の変化に目を向ける必要があります。
ただし、日本企業には、品質や納期、細かな注文への対応など、価格以外の強みもあります。
取引先から何を求められているのかを確かめ、自社にしか提供できない価値を磨くことが、これまで以上に大切になると思います。
一方で、日本に新しい仕事が生まれる可能性もあります
中国への依存を減らす動きは、日本にとって厳しい面だけではありません。
生産場所や部品の調達先が分散されれば、日本や東南アジアで半導体、電力などの設備投資が増える可能性があります。
新しい工場が建てば、その工場だけで仕事が完結するわけではありません。
建設、設備の保守、運送、部品加工、清掃、飲食など、周囲の企業にも需要が広がることがあります。
もっとも、大きな投資が発表されたからといって、地域の企業が自動的に豊かになるわけではありません。
必要な人材が集まらず、人件費や建設費だけが上がる場合もあります。
部品を海外から調達すれば、地元への利益は限られるかもしれません。
重要なのは投資額よりも、その投資が利益を生み、地域の仕事や所得を増やせるかどうかです。
安い輸入品と円安は、別々に考える必要があります
中国から安い製品が入ってくると、日本の生活費が下がるのではないかと期待する人もいるでしょう。
確かに、輸入価格が下がることは、消費者や仕入れをする企業にとって助けになります。
しかし、日本で実際に支払う価格は、中国側の販売価格だけで決まるわけではありません。
円と外国通貨の交換比率、つまり為替相場にも左右されます。
例えば、海外の商品が現地では1割安くなっても、その間に円の価値が下がれば、日本円に直した仕入れ価格は思ったほど安くならないことがあります。
輸送費や関税なども関係します。
反対に、中国の景気が弱くなれば必ず円高になるというものでもありません。
円相場は日本と海外の金利差、投資家の動き、世界の景気への見方など、さまざまな要因で変わります。
中国製品が安くなるという話と、日本の家庭や会社の購買力が高まるという話は、分けて考えたいところです。
中小企業が今から意識しておきたいこと
このような世界の変化に対して、日本の中小企業は何をすればよいのでしょうか。
すべての会社が海外のニュースを毎日追いかける必要はありません。
しかし、自社の取引や資金繰りにどう関係するかは、定期的に確かめておきたいところです。
まず、主要な取引先がどの国に商品を売り、どの国から材料を買っているかを確認することです。
直接海外と取引していなくても、取引先の先に中国市場がある場合は少なくありません。
例えば、従業員10人ほどの金属部品の加工会社を想像してみてください。
直接の取引先は国内の機械メーカーだけでも、そのメーカーが中国向けに建設機械を多く出荷していれば、中国の住宅市場の冷え込みが、数か月遅れて受注の減少として届くことがあります。
取引先の先まで見ておけば、早めに手を打ちやすくなります。
次に、仕入れ価格が下がったときと上がったときの両方を考えることです。
価格競争が強まると、売上高が維持できても利益が減る可能性があります。
材料が安くなったとしても、取引先から同じだけの値下げを求められれば、利益は増えません。
さらに、大きな設備投資を行うときは、需要の見通しを慎重に確かめたいところです。
補助金があるから投資するのではなく、補助金がなくても十分な仕事があり、借入金を返していけるかという順番で考えることが大切です。
そして、売上高や利益だけでなく、手元のお金にも目を向ける必要があります。
価格競争が激しくなる時期ほど、仕入れや在庫、売掛金の増加が資金繰りを圧迫することがあります。
これからの中国経済には、いくつかの道があります
今後の中国について、一つの結末を決めつけることはできません。
考えられる展開は、大きく分けると三つあります。
一つ目は、先端産業が成長を続ける一方で、不動産と個人消費の弱さが長引く場合です。
この場合、国全体では一定の成長が続いても、好調な企業と苦しい企業の差が残りやすくなります。
海外への販売も重要であり続けるでしょう。
二つ目は、住宅市場が落ち着き、家庭が将来に安心を持てるようになる場合です。
国内で買い物が増えれば、輸出だけに頼らずに成長しやすくなります。
海外との価格競争や貿易上の対立も、いくらか和らぐかもしれません。
三つ目は、住宅市場の不調が深まり、設備投資の負担や海外の輸入規制が重なる場合です。
企業の収益や雇用が弱まり、家計がさらに支出を控えるという厳しい流れも考えられます。
現時点で大切なのは、極端に楽観したり悲観したりしないことです。
中国には強い産業と大きな市場があります。
同時に、解決まで時間がかかる問題も抱えています。
注目したいのは、工場よりも家庭の変化です
これから中国経済を見るとき、私は経済成長率だけでなく、もう少し生活に近い数字を重視したいと思います。
住宅の販売価格や販売件数が落ち着いているか。
家庭の所得が増え、それが買い物につながっているか。
民間企業が将来の需要を信じて投資を増やしているか。
今年1月から9月までの民間企業の投資は前年より1割ほど減っており、ここが持ち直すかどうかは大きな目安になるでしょう。
そして、製造業は売上高だけでなく、きちんと利益を確保できているかという点です。
海外との関係では、中国製品への関税や輸入の規制がどう変わるかも重要です。
輸出が増えていても、販売先との対立が深まれば、先行きは不安定になります。
住宅、消費、利益、輸出を合わせて見ることが大切です。
おわりに―国が豊かになることと、人が豊かになること
中国の経済を考えるとき、「強い国になるのか」「弱い国になるのか」という二つの答えに分けたくなります。
しかし、現実はもっと複雑です。
中国には、世界で戦える技術と生産の力があります。
それは軽く見るべきではありません。
一方で、作ったものが国内で十分に買われず、海外で販売を増やすほど取引相手との摩擦が強まるという難しい問題もあります。
本当に必要なのは、工場の数や輸出の金額を増やすことだけではないはずです。
働く人の所得が増え、家庭が将来に安心を持ち、国内で商品やサービスを買える状態を作ることも欠かせません。
これは、日本にとっても大切な問いです。
国内外で企業が成長しても、その成果が賃金や地域の仕事、毎日の暮らしに届かなければ、経済がよくなったという実感は広がりません。
中国経済のこれからを考えることは、世界の競争を知るだけではなく、私たち自身がどのような経済の成長を目指すのか、改めて考えることでもあるのではないでしょうか。





