税抜経理・簡易課税で消費税の調整差額がマイナスになったら?「雑損失」になる理由をわかりやすく解説
会社の決算で消費税の計算を終えたあと、「消費税の調整差額」という数字が出てくることがあります。
特に、次の2つを組み合わせている会社では、この差額が出るのはごく普通のことです。
ひとつは「税抜経理(ぜいぬきけいり)」です。
売上や経費を記録するときに、本体の金額と消費税の部分を分けて記帳する方法のことです。
もうひとつは「簡易課税制度(かんいかぜいせいど)」です。
実際に支払った消費税を一つひとつ集計する代わりに、売上をもとに、業種ごとに決められた割合を使って納める消費税を計算できる制度です。
そして、この差額がプラスではなくマイナスになっていると、「これは何の科目で処理すればいいのだろう?」と迷われる方が多いようです。
先に結論をお伝えします。
税抜経理をしている簡易課税の会社で、帳簿上の「仮受消費税等(かりうけしょうひぜいとう)-仮払消費税等(かりばらいしょうひぜいとう)」の金額よりも、実際に納める消費税のほうが大きい場合、その足りない分は、原則として「雑損失(ざっそんしつ)」として処理します。
これは、会計ソフトの都合で決まっている処理ではありません。
国税庁のタックスアンサー(No.6513「簡易課税制度の適用と経理処理」)でも、簡易課税制度を適用している場合の税抜経理について、この差額を「雑損失」として損金(法人税の計算上、経費として認められるもの)に算入する取扱いが明確に示されています。
では、なぜこのような差額が出るのでしょうか。
仕組みが分かると、決算で「消費税調整差額」という数字を見ても、落ち着いて確認できるようになります。
まず「税抜経理」とは何か
消費税の記帳方法には、大きく分けて「税込経理」と「税抜経理」の2つがあります。
税込経理は、消費税を含んだ金額のまま売上や経費を記録する方法です。
一方、税抜経理は、本体の金額と消費税を分けて記録する方法です。
たとえば、税率10%の商品を110万円で売ったとします。
税抜経理では、「売上100万円」と「仮受消費税等10万円」に分けて記帳します。
仮受消費税等とは、お客様から「いったん預かっている消費税」のことです。
反対に、110万円(税込)の商品や経費を買ったときは、「仕入や経費100万円」と「仮払消費税等10万円」に分けて記帳します。
仮払消費税等とは、仕入先などに「いったん支払っている消費税」のことです。
つまり税抜経理とは、預かった消費税と支払った消費税を、会社のもうけ(損益)とは別の箱で管理しておく方法だとイメージしていただくと分かりやすいと思います。
なお、科目名の「等」は、国の消費税と地方消費税を合わせたものという意味です。
この記事で「消費税」と書いている部分も、地方消費税を含めた金額としてお読みください。
原則課税では、仮受・仮払をもとに納める税額を計算する
ここで、簡単な例を考えてみましょう。
1年間で預かった消費税(仮受消費税等)が100万円、支払った消費税(仮払消費税等)が80万円だったとします。
単純に差し引くと、100万円-80万円=20万円です。
簡易課税を使わない、いわゆる「一般課税」(原則課税・本則課税と呼ばれることもあります)では、この考え方が基本になります。
預かった消費税から、差し引いてよい支払済みの消費税を引いて、納める税額を計算します。
この「差し引くこと」を、専門用語で「仕入税額控除(しいれぜいがくこうじょ)」といいます。
もちろん、実際の計算では、課税売上割合(売上全体のうち、消費税の課税対象となる売上の割合)や、差し引けない消費税、端数の処理など、細かな要素が関係します。そのため、支払った消費税が必ず全額差し引けるとは限りません。
ただ、基本的な考え方としては、「預かった消費税-支払った消費税=納める消費税」と理解しておいて差し支えありません。
ところが、簡易課税になると、この事情が変わってきます。
簡易課税では「実際に支払った消費税」で計算しない
ここが、この記事でいちばん大切なところです。
簡易課税制度では、実際に仕入や経費でいくら消費税を支払ったのかを積み上げて計算するわけではありません。
代わりに、売上にかかる消費税に「みなし仕入率(しいれりつ)」という割合を掛けて、差し引ける消費税を計算します。
みなし仕入率とは、業種ごとに国が定めている「この業種なら、売上に対してこれくらいは仕入や経費がかかっているだろう」とみなす割合のことです。
たとえるなら、レシートを1枚ずつ集計するのではなく、「この業種なら、だいたいこのくらい」という目安の数字で計算するイメージです。
そのため、会計帳簿に実際に記録されている「仮払消費税等」と、簡易課税で計算した「みなしの仕入税額控除」は、ふつうは一致しません。
この食い違いから生まれるのが、「消費税の調整差額」です。
具体例で考えてみましょう
決算の時点で、仮受消費税等が100万円、仮払消費税等が80万円だったとします。
帳簿の上では、100万円-80万円=20万円が残っている状態です。
ところが、簡易課税で実際に消費税の申告書を作ってみたところ、納める税額が30万円になったとします。
帳簿には20万円しか残っていないのに、実際には30万円を納めなければなりません。30万円-20万円=10万円が足りないことになります。
この10万円が、簡易課税によって生じた消費税の調整差額です。
この場合、10万円を「雑損失」として処理します。
仕訳(取引を帳簿に記録する形)で表すと、借方(左側)に「仮受消費税等1,000,000円」と「雑損失100,000円」、貸方(右側)に「仮払消費税等800,000円」と「未払消費税等300,000円」を計上するイメージです。
こうすることで、仮受消費税等と仮払消費税等の残高を決算できれいに精算できます。
そして、実際に納める30万円は「未払消費税等(まだ払っていない消費税)」として貸借対照表(会社の財産や借金の状況を示す表)に残り、足りなかった10万円は会社の費用である「雑損失」になります。
国税庁も「雑損失」と明記しています
この処理については、国税庁の取扱いがはっきりしています。
国税庁のタックスアンサー(よくある税の質問に対する国税庁の解説)No.6513「簡易課税制度の適用と経理処理」では、税抜経理をしている簡易課税の事業者について、「仮受消費税等-仮払消費税等」の金額が、簡易課税で計算した実際の納付税額より少ない場合には、その差額を「雑損失」として損金に算入するとされています。
個人事業主の場合は、「損金」ではなく「必要経費」に算入することになります。
この取扱いの根拠は、国税庁の通達である「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(個人事業主の場合は「消費税法等の施行に伴う所得税の取扱いについて」)です。
ですから、「マイナスになったから、とりあえず雑損失にしておこう」という、その場しのぎの処理ではありません。
税務上も認められている、きちんとした処理です。
反対に、差額がプラスなら「雑収入」
もちろん、逆のケースもあります。
先ほどと同じく、仮受消費税等が100万円、仮払消費税等が80万円で、帳簿上の差額は20万円だとします。
ところが、簡易課税で計算した実際の納付税額が10万円だったとしましょう。
この場合、20万円-10万円=10万円が余ります。
この10万円は会社に残るお金ですので、「雑収入(ざっしゅうにゅう)」として処理します。
まとめると、実際に納める税額のほうが大きければ「雑損失」、帳簿上の消費税の残高のほうが大きければ「雑収入」という関係になります。
「マイナスだから雑損失」とだけ覚えないほうが安心です
ここで、ひとつ気をつけていただきたい点があります。
会計ソフトによって、「消費税調整差額」「消費税差額」「調整額」など、表示される名前が違うことがあります。
さらに、プラスとマイナスをどちら向きに表示するかも、ソフトや画面によって異なる場合があります。
そのため、「マイナス表示なら必ず雑損失」とだけ覚えてしまうのは、あまりおすすめできません。
大切なのは、表示の符号ではなく、数字の中身を見ることです。
確認するのは、帳簿上の「仮受消費税等-仮払消費税等」の金額と、消費税申告書で計算された実際の納付税額の2つです。
実際の納付税額のほうが大きければ、その不足分が雑損失です。
帳簿上の残高のほうが大きければ、その余った分が雑収入です。
この考え方さえ押さえておけば、会計ソフトが変わっても迷わずに判断できます。
今期が赤字でも「雑損失」でよいのか
「今期はもともと赤字なのですが、それでも雑損失にしてよいのでしょうか?」というご質問をいただくことがあります。
結論として、赤字でも雑損失として処理して問題ありません。
会社が黒字か赤字かは、この調整差額の処理には関係しません。
簡易課税の計算の結果として雑損失が出たのであれば、その期の損金になります。
たとえば、調整差額を計上する前の当期の赤字が100万円だったとします。
そこに雑損失10万円を計上すると、ほかの条件を考えない単純なイメージでは、赤字は110万円に広がります。
「赤字なのに、さらに消費税で損失を増やすのはおかしいのでは?」と感じられるかもしれません。
しかし、会計や税務の考え方からすると、特におかしなことではありません。
そもそも、消費税と法人税は、税金の計算の仕組みがまったく違うからです。
法人税が赤字でも、消費税を納めることはあります
ここは、経営者の方が特に誤解しやすいところです。
「会社が赤字なのだから、税金は払わなくていいのでは?」と思われることがあります。
たしかに法人税は、税務上のもうけ(所得)をもとに計算します。
そのため、税務上の所得がマイナスであれば、通常、法人税そのものはかかりません(ただし、法人住民税の均等割のように、赤字でもかかる税金はあります)。
一方で、消費税は会社のもうけをもとに計算する税金ではありません。
売上や仕入税額控除などをもとに計算します。
そのため、「法人税は赤字でゼロなのに、消費税は数十万円、数百万円を納める」ということは十分にあり得ます。
特に簡易課税では、実際の仕入や経費の額ではなく、売上にかかる消費税とみなし仕入率をもとに計算します。
ですから、経費が大きくふくらんで会社全体が赤字になっていても、それだけで消費税の納付額が減るとは限りません。
これは、資金繰りを考えるうえでもとても大切なポイントです。
赤字の年でも消費税の支払いは発生しますので、納付に備えて資金を残しておくことをおすすめします。
「赤字なのに消費税が多い」ということも起こります
たとえば、売上は前の年とあまり変わらないものの、人件費が増えた、給与を上げた、社会保険料が増えた、借入金の利息が増えた、設備の修繕費がかさんだ、その他の経費も増えた、という会社を考えてみます。
これらの費用によって、会社の利益が大きく減ることがあります。
ところが、給与や社会保険料、借入金の利息などには、ふつうの仕入のように消費税が含まれているわけではありません。
さらに簡易課税では、実際の仕入の額ではなく、業種ごとのみなし仕入率を使って計算します。
そのため、「決算書では大きな赤字」なのに、「消費税はそれなりの金額を納めなければならない」という状態もあり得ます。
会社の利益と消費税の納付額は、必ずしも同じ方向に動くわけではない、ということを覚えておいていただくと安心です。
そもそも、なぜ簡易課税で雑収入や雑損失が出るのか
ここまで読んで、「消費税の話なのに、なぜ会社の利益や損失になるのだろう?」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
税抜経理では、本来、消費税の部分は会社の売上や経費とは切り離して管理します。
原則課税であれば、基本的には仮受消費税等と仮払消費税等を精算して、納付額や還付額(戻ってくる額)を出すことになります。
ところが簡易課税では、帳簿に記録された実際の仮払消費税等を使って税額を決めません。
税務上は、みなし仕入率で計算した「みなしの仕入税額控除」を使います。
つまり、会計の帳簿は「実際に発生した消費税」を記録しているのに対し、税務申告は「みなし」で消費税を計算している、ということです。
この2つの世界を決算で合わせようとすると、どうしても差額が出てきます。
その差額を、最終的に会社の収益または費用として精算するのが、「雑収入」または「雑損失」という処理なのです。
雑損失が出ても「簡易課税で損をした」とは限りません
もうひとつ、気をつけていただきたい点があります。
決算で大きな雑損失が出ているのを見ると、「簡易課税を選んだせいで損をしたのでは?」と心配になるかもしれません。
しかし、雑損失が出たという事実だけでは、簡易課税が有利だったのか不利だったのかは判断できません。
比べるのであれば、「簡易課税で実際に納める消費税」と、「原則課税だったと仮定した場合の消費税」の2つを比べる必要があります。
そうして初めて、簡易課税で納税額が少なくなったのか、多くなったのかが分かります。
「雑損失が出た」というのは、あくまで帳簿上の仮受・仮払の残高と、簡易課税で確定した税額との間に差があった、という意味にすぎません。
簡易課税そのものの有利・不利とは、別の問題として考えたほうがよいでしょう。
なお、簡易課税を続けるかどうかは、事前の届出の期限などとも関係しますので、見直しを考える場合は早めに税務署にご相談ください。
また、飲食料品の消費税率については、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、1%(国と地方の合計)に引き下げる案が示されています。
これは、令和8年9月15日に閣議決定された大綱で示された改正案です。
今後、法案が国会に提出され、審議を経て可決・成立した場合に実施される内容で、この記事を作成した時点では、まだ法律として成立していません。
この改正案では、飲食料品の販売を行う簡易課税の事業者について、次のような特例も示されています。
まず、令和9年4月1日を含む課税期間中に「簡易課税制度選択不適用届出書(簡易課税をやめるための届出書)」を提出すれば、その課税期間から一般課税で申告できるようにする案です。
また、簡易課税には、選んだら2年間は続けなければならないというルール(いわゆる「2年縛り」)がありますが、令和9年4月1日を含む課税期間については、このルールを適用しないこととする案です。
さらに、簡易課税のまま申告する場合には、業種にかかわらず、飲食料品の販売(1%の対象)にかかる売上の消費税と同じ額を、仕入の消費税として計上する案も示されています。
飲食料品を扱っている事業者の方は、今後の法案の成立状況とあわせて、国税庁の「消費税率引下げ特設サイト」で最新の情報をご確認ください。
消費税の調整差額はいつ計上するのか
調整差額を計上する時期も大切です。
国税庁のタックスアンサーでは、税抜経理で簡易課税制度を適用している場合に生じるこの差額は、その差額が生じた課税期間を含む事業年度(個人事業主の場合は年)で清算することとされています。
法人であれば、決算のときにその期の消費税を計算し、未払消費税等や雑収入、雑損失などをきちんと計上することになります。
ですから、「実際に税務署へ消費税を納めた翌期に雑損失にする」という考え方ではありません。
決算のときにその期の消費税額を確定させ、その期の損益として処理するのが基本です。
「雑損失」と「租税公課」を混同しないようにしましょう
ここも、混同されやすいところです。
「消費税に関係する費用なら、租税公課(そぜいこうか:税金などを経費にするときの科目)ではないの?」と思われるかもしれません。
これは、記帳方法によって考え方が違います。
税込経理では、売上や仕入、経費に消費税を含めたまま記帳しています。
この場合、納める消費税は「租税公課」などの科目で経費として処理することになります。
一方、この記事で取り上げているのは、「税抜経理+簡易課税」の場合です。
税抜経理では、消費税を仮受消費税等・仮払消費税等として、本体の損益から切り離しています。
そのうえで、簡易課税で確定した税額との差額だけを、雑収入または雑損失として調整します。
この違いを押さえておくと、科目選びで迷いにくくなります。
会計ソフトの数字だけでなく、消費税申告書まで確認しましょう
決算のときには、会計ソフトが消費税の仕訳を自動で作ってくれることがあります。
とても便利ですが、自動仕訳だからといってそのまま登録するのではなく、一度中身を確認しておくことをおすすめします。
確認していただきたいのは、仮受消費税等はいくらか、仮払消費税等はいくらか、消費税申告書の納付税額はいくらか、調整差額はいくらか、そしてその差額は雑収入なのか雑損失なのか、という流れです。
特に簡易課税では、帳簿上の仮払消費税等そのものを使って納税額を計算するわけではありません。
そのため、「帳簿上の消費税の残高」と「申告書の納付税額」が一致しないのは、異常なことではありません。
むしろ大切なのは、その差額をきちんと精算できているかどうかです。
まとめ
税抜経理をしている会社が簡易課税制度を使っている場合、決算のときに、帳簿上の「仮受消費税等-仮払消費税等」と、簡易課税で計算した実際の納付税額が一致しないことがあります。
これは、簡易課税が、実際に支払った消費税ではなく、売上にかかる消費税とみなし仕入率を使って、差し引ける消費税を計算する制度だからです。
帳簿上の差額よりも実際の納付税額のほうが大きければ、その不足分は雑損失になります。
反対に、帳簿上の差額のほうが大きければ、その余った分は雑収入になります。
また、会社が赤字であっても、この取扱いは変わりません。
雑損失が出れば、その期の損金として処理します。
法人税と消費税は計算の仕組みが違うため、「会社は赤字なのに消費税は納める」ということも珍しくありません。
資金繰りの面でも、消費税の納付を見込んでおくことが大切です。
そして、会計ソフトに「消費税調整差額 マイナス」と表示されていても、符号だけで判断せず、帳簿上の仮受・仮払消費税等の差額と、申告書で確定した納付税額を比べることが大切です。
消費税の決算仕訳は、一見すると複雑に見えます。
しかし、「帳簿では実際の消費税を記録している」「簡易課税ではみなし仕入率を使って税額を計算している」「その2つの差を雑収入・雑損失で調整する」という3つに分けて考えると、仕組みはぐっと分かりやすくなります。
消費税の調整差額が出たときは、会計ソフトの表示だけで済ませず、「なぜこの金額になったのか」まで確認しておくと、決算書や消費税申告書の内容をより正確に理解できるようになります。
※本記事は、2026年(令和8年)9月時点で公表されている情報をもとに、一般的な取扱いを解説しています。
簡易課税制度の経理処理については、令和8年4月1日現在の法令等にもとづく国税庁の公表資料(タックスアンサーNo.6513・No.6505など)を参照しています。
飲食料品の消費税率引下げについては、令和8年9月15日に公表された国税庁・財務省の資料を参照しています。
なお、飲食料品の消費税率引下げに関する部分は、記事作成時点では国会で成立していない改正案の内容であり、今後の審議によって変更される可能性があります。
実際の処理には、会社ごとの取引内容や経理方法などに応じた個別の判断が必要になる場合があります。
詳しくは税務署にご確認ください。






